国際的なカーボンニュートラルの中間目標である2030年が4年後に迫る中、9月にアーバンランド・インスティテュート(Urban Land Institute)が発刊した報告書『BEHAVIOR CHANGE TO ACHIEVE NET ZERO: Best Practices and Examples for Engaging with Tenants(和訳:ネットゼロ達成に向けた行動変容:テナントとの協働によるベストプラクティスと事例集)』によると、世界のCO₂排出量の約30%を占める不動産運用のうち、約80%は個人や企業テナントの専有部に由来するとされています。こうした背景から、不動産運営における省エネや持続可能な取り組みを成功させるには、テナントの行動変容が不可欠です。
同報告書でテナントの行動変容を促すための主要戦略としてあげられる、金銭的・法的インセンティブ、認知・表彰、ゲーミフィケーション、グリーン・ナッジ、グリーン・デフォルト、テナント教育について、弊社の事例も踏まえつつ紹介していきます。
1. 金銭的・法的インセンティブ
報告書によると、インセンティブは金銭的・非金銭的を問わず、テナントの行動変容促進に効果的であるとされています。
金銭的インセンティブ
国内においてもギフト券の進呈など、テナントからの協力を仰ぐ際に金銭的なインセンティブの活用は主流な手法となっていますが、海外では、賃料や光熱費の割引(欧米ではオーナーが光熱費を立替え、後からテナントに請求する形が主流)といった大胆な金銭的インセンティブのケースも見られるようです。
法的インセンティブ
法的インセンティブとは、法律によって定められた、特定の行動を促すための経済的・制度的措置を指します。これは、企業が従業員のモチベーションを高める「インセンティブ制度」とは異なり、国や公共機関が政策として、個人や企業が望ましい行動をとるよう誘導するために設けられます。 同書では、特定規模を超える物件対して基準値以上のGHG排出に罰則を設けるニューヨーク市のLocal Law 97において、排出規制違反に伴う罰則費用の一部を家賃に上乗せしてテナントに転嫁することが認められている点。また、フランスのテルシエ規則(Décret Tertiaire)では、建物の所有者とテナント双方にエネルギー性能の報告義務が課され、責任範囲が賃貸契約書で明確化されることで環境対策に向けた連携を促している例が紹介されています。
2. 認知・表彰
認知・表彰プログラムは、テナントに自らの省エネ・環境配慮行動が評価されていることを実感してもらうことが鍵となります。テナントが自らの貢献を確認できることが持続可能な行動の習慣化を後押しし、ロイヤリティ向上の効果も期待されます。

3. ゲーミフィケーション
ゲーミフィケーションは、多くの教育アプリでも活用されている手法でクエストや競争の要素を取り入れ、利用者の行動を自然に誘導する手法です。たとえば、弊社が提供する環境ウェルネス教育ゲーム「サステナブルチャレンジ」では、利用者をクイズに答えてサステナベリーを集める冒険へと誘います。達成状況に応じたバッジやポイントを付与したり、ランキング形式で達成度を可視化することで、テナントの省エネ行動への参加率を高めることが可能です。

4. グリーン・ナッジとフレーミング効果
ナナッジとは、「ひじで軽くつつく、そっと後押しする」を意味する英単語で、人間の行動特性を踏まえた制度や選択肢を設計し、望ましい方向へ導く手法です。また、フレーミング効果とは、情報の提示方法によって人の判断や行動が変わる現象を指します。例えば、公衆トイレで「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」という張り紙が主流になったのも、フレーミング効果による検証の結果と言えるでしょう。
弊社が環境省の実証事業の一環として住環境計画研究所と協力し、KDX豊洲グランスクエアで実施した実証実験では、損失フレーム(「〇〇しないと〜なります」という声かけ。)と利得フレーム(「〇〇すると〜なります。」という声かけ。)の効果の差を計測しました。フレーミングとナッジを組み合わせることで、テナントのグリーン選択を誘導することが可能です。
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5. グリーン・デフォルト
グリーン・デフォルトとは、最も簡単に選べる選択肢を環境に優しいものに設定する戦略です。たとえば、照明や空調のデフォルト設定を省エネモードにすることで、テナントは意識的な操作なしに持続可能な行動を取ることができます。この手法は、省エネ行動の自動化と習慣化に非常に有効です。
6. テナント教育
テナント教育は、行動変容を定着させるうえで欠かせない要素であり、GRESBでも「ESGガイド」の提供についての項目が設けられるほどです。テナント向けのイベント開催や、入居資料や館内の掲示板、エレベーターホールや庫内でのデジタルサイネージなど、さまざまな媒介を通してテナント教育の取り組みが行われています。

このように、テナントの行動変容を促す多様な戦略を組み合わせることで、建物全体の省エネ効果や持続可能性を高めることができます。金銭的・法的インセンティブ、認知・表彰、ゲーミフィケーション、グリーン・ナッジ、グリーン・デフォルト、テナント教育といった主要な施策を総合的に導入することが、ネットゼロ達成に向けた不動産運営では重要です。しかしながら、啓発イベントの開催や、ポスター、アプリなどの媒介を通じた情報提供にかけるリソース不足も不動産オーナーやアセットマネージャーの悩み種となっているようです。
弊社では、こうした施策を効率的に実行するためのテナントエンゲージメントプラットフォームと、実際のイベント開催やコンテンツ運営サービスを提供しています。オフィスや大型住宅向けにはEaSyGo、小中規模住宅ポートフォリオ向けにはResiGoを用意しており、ゲーミフィケーション、テナント教育、インセンティブ設計など、行動変容を支援する主要機能を網羅しています。
各サービスの詳細や導入事例については、下記より資料をご請求いただけます。テナントとの連携を強化し、建物の持続可能性向上にお役立てください。




